「ふう」

 最後にもう一度冷蔵庫に入れて、一時間以上冷やし固め、完全に固まってから転写シートを剥がせば完成だ。

「きゃーん、かわいい!」

 我ながらなかなかの出来栄えに一人悶絶する。

 出来上がったのは、赤と金のチェック模様や雪の結晶、黄色の幾何学模様などで表面が華やかに彩られたカップ入りチョコレートで、転写シートの柄のおかげで、売られていてもおかしくないくらいの見た目に仕上がった。

「みんな喜んでくれるといいな」

 ドキドキわくわくしながらそれらを専用の小箱に入れる。翔太のは野球のボールとバットがプリントされた少年っぽいデザインの箱で、ほかの三人はシックなダークブラウンの無地の箱だ。それにそれぞれリボンをかけた。

 咲良の奮闘からもわかる通り、今日はバレンタインデーだ。夕方、リトル・ベア・アカデミーでの仕事が終わったあとで一生懸命手作りしたのには訳がある。今日は翔太の仕事が終わるのを待たずに、一人で先に戸田家へ行くのだ。

「どうしよう、緊張するな~」

 妹の百々花の結婚式で翔太にプロポーズされてすぐ、翔太の母とその再婚相手である戸田太一(たいち)に婚約を報告するために会いに行った。翔太に似た愛らしい顔立ちの彼の母と、背が高いけれどとても物腰の穏やかな太一とは、すぐに打ち解けることができ、それから数回二人を訪ねている。何度目かに戸田邸を訪ねたとき、長兄の遼太(りょうた)とも挨拶を交わした。遼太は次兄の創太のように横柄な印象はなかったが、いかにも冷静で頭の切れるエリート・ビジネスマンといった感じだった。翔太が会社を辞めたことで、もう彼との過去の確執をなかったことにしたいと考えているのか、とくに結婚に反対されたり心ないことを言われたりすることはなかった。