「お父、さん…」


「おかえりになっていたのですか。旦那様」

座っていた光が即座に立ち、お辞儀をした。


「ああ、楽しそうなところをお邪魔して悪いね」


「大丈夫よ。お父さん」


「気づくことができず、申し訳ありません」


「いいんだよ、光くん。香里奈の世話、ご苦労様」

私の世話って…

私はペットじゃない!


「いえ、とんでもございません」


「ところで、何をしていたんだ?」


「ああ、劇の練習よ」


「劇?」

お父さんは首を傾げた。


「私たちのクラスで文化祭に劇をやることになりまして…」


「その主役になっちゃったのよ、私たちが」


「そうか。それは楽しそうだな」

嫌な予感がする…


「よし、仕事の都合がついたら、私も見に行くとしよう」

やっぱりー!!


「いいわよ、お父さん」


「子ども二人が出るんだ。見に行かないわけにはいかん」

光は子どもの時からうちにいる。

だからか、お父さんは、光を息子のように思っていた。


「では、完ぺきなものをお見せできるよう、全力を尽くします」

光は笑顔で言った。


「楽しみにしているぞ」


「光まで…」

私は呆れてため息をついた。

お父さんは笑って部屋を出て行った。


「もう、お父さんまで見に来ちゃうことになったじゃない」


「まで?」


「早苗さんもくるって言ってたのよ」


「そうか。よかったな」


「よくないわよ」

私は拗ねたように言った。


「顔は、嬉しそうだけど?」

光は意地悪く言った。

確かに、嫌じゃない。

お父さんがこういうのを見に来てくれるのは初めてだから。

いつも、仕事でむりだったから…

光はそれをわかって…?


「光、完ぺきなものを見せるわよ」


「当然」

私たちは笑ってまた練習を再開した。