ギィィ


由羅への説明を那月くんに任せて私がやってきたのは屋上。

由羅に悪いことしちゃったな~

那月くんにも…


「あーあ、ほんと、やだ…」

わかってたのに…

もしも、学園の王子様と呼ばれている光が告白していたとしたら、断る女子なんていない。

だから、そのお姫様と付き合うことも十分にありえること。

私は受け入れなくちゃいけなかった。

それがわかってたから、距離を置こうとしてたのに…


「気づくの遅すぎ…」

バカみたい。

ずっと、光がそばにいてくれて、なんとなく、このままずっと光がそばにいてくれるんだと、そう思ってた。

離れることなんて、考えもしなかった。

でも、そんなのは、ただの私の願望で…

現実を見れば、光が離れていくことだって、予想できたはずだ。

でも、それを考えなかったのは…


「まだまだ、私も、弱いなぁ…」

強くはなりきれないね。


「香里奈」

後ろから声がした。


「由羅…」

振り返るとそこには由羅。


「ごめん!私、なんにも知らないで…」

由羅は、悪くない。


「違うよ。私が言わなかったから…」


「香里奈、昨日聞きそびれたこと、教えてくれない?」

一瞬戸惑ったような仕草をした由羅が口を開いた。


「…うん」

そして、私は話し始めた。


「那月くんに聞いたと思うけど、光に好きな人がいることを知って、那月くんには、私がいなきゃ、光はだめだからそばにいてあげてって言われたけど、正直、ダメなのは私のほうで…」

そう、光を必要としてるのは、私のほうなんだ。


「私、そこで、やっと、光がいなくちゃなにもできない自分に気が付いたの」

由羅は黙って私の話を聞いていた。


「光に好きな人ができて、付き合うことなんて、考えたこと、なかった。光が私のそばから離れていくことなんて、考えてなかった。でも、いつかはきっと…それは、避けれないことで…」

それが、現実で…


「そう考えたとき、急に怖くなった。私は、光が私から離れることを望んだ時、認めてあげられるのかなって…」

光がいない未来を考えたことがなかった。


「なら、今から離れておかないと。一人でいられるようにしていないと、私は、きっと、将来、光の邪魔になる時が来るって。光の未来を邪魔する時が来てしまうって…」

それだけは、嫌だった。


「光は、私の大切な人だから。大好きな、人だから。そんなの、絶対にいやだって…」

そう、思ったんだ。


「そっか…」

そこまで話して、ようやく由羅が口を開いた。


「うん」


「でも…光くんは、そんなこと、望んでないと思うよ?」


「それ、早苗さんにも言われた」


「ほら、なら、なおさらね。大丈夫だよ。あんたちは周りから見たらカップルに見えるくらい仲いいんだから」


「なにそれ~」


「ほら、なにも言わなかったら、みんな勝手に付き合ってると思ってくれてるじゃない?それって、それだけお似合いってことでしょう?」

そうなのかな…

でも、そうだといいな。って思う。


「さて、教室戻りますか。早く終わらせて、光くんのとこ、帰ってあげなよ」

由羅は立ち上がって、パンパンと、スカートの汚れを払った。


「ね?」

そして、私に手を差し出す。


「…うん」

私もその手を取って、ふたりで歩き出した。






ねぇ、光?

私ね、今、ものすごく、あなたに会いたい。

たったの半日。

あなたの顔が見れていないのはそれだけ。

声だって、電話で聞いたのに、あなたに会いたくて仕方がないの。

あなたが、誰を好きでいても。

あなたがもしも、私といることを、望んでいなくても…。