『夕方からいらっしゃるようなので、ピアノのレッスンからそれまではゆっくりお過ごしください』


早苗さんにそんな言葉とともに見送られ、ピアノの先生と部屋に入り、ピアノを弾く。


「はい、ではここまで」


「はい…」


「今日は随分と上の空だったのね」


「……………」


「あなたらしくないわ」

らしい…?

私らしさなんて、誰が知ってるの。

誰よりそばにいた、光でさえそばにいないのに。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「…………」

庭に立ってぼーっと花を見つめる。

早苗さんが手入れしてくれているおかげか、光がいなくなっても変わらず咲き続けている花たち。

なんども。

待とうと、

強くなろうと、

そう思っては弱くなる。

でも、もう待てない。

私には時間がない。


「結婚か……」

考えたこともなかった。

光がいて、由羅がいて、那月くんがいて、早苗さんがいて。

お父さんがいて。

学校へ行って、レッスンを受けて、時々パーティに出て。

そんな生活しか考えなかった。

バラバラになったり、誰かが増えたり、そんなことを考えていなかった。