「あ…………なんでもないです」
「そうですか…………明日もお休みですから。ごゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
早苗さんは一礼して部屋を出ていった。
『講師の方の名前が書いておられませんでしたが、どんな方なんでしょうね』
そんな言葉、私の中には残っていなかった。
料理のレッスン…
婚約が決定事項なのだと、突きつけられているようで。
否が応でも心の準備はさせると。
そういうことだろう。
別に、お父さんに怒るわけでもない。
恨みもしないし、悪いとも思ってない。
ただ、きっと、どんな人が私のそばにいても、想うのは…………
そんな私はちゃんと聞けていなかった。
お父さんの話が…水月財閥のトップであるあの方の話はあれだけじゃないと。
なにも気づかなかった。

