わかっていた。

全部。

全部、全部。

わかっていた。

いやっていうほど。

少しでも気を抜けば涙がとめどなく零れるほど。

わかっていたの。

それでも…それでも目を背けていたのは…




「光くんが………好きなんだな」

お父さんが哀しそうな顔で私を見た。


「ふっ、くっ」

涙が溢れる。

嗚咽が漏れる。

拭っても拭っても止まることは無い。

それは、私の気持ちのようだった。


「なんとなく、気づいてはいた。光くんが倒れたとき、看病をしているお前が寝ている光くんにつぶやいているのを聞いたんだ」

そうだったんだ…。


「すまない、もう、ずいぶん前から決まっていたことなんだ」


「…」


「光くんは、西園寺家のお嬢さんと婚約することになった」


「…っ!」

続々と落とされる残酷な言葉。

私の手のひらには強く握り過ぎたのか爪が食い込んでいた。

嗚咽をこらえようとかみしめた唇。

微かに鉄の味がした。


「前は、それが一番だと思っていたんだ。こんなことになるなんて…本当にすまない」

そういって頭を下げるお父さんに私は何も言えなかった。

ただ、ただ、涙をとめることで精いっぱいだった。