風は囁く「君と輝きたいから」

――詩月さんは今まさに、変更になった楽譜を記憶している? そして、詩月さんが失敗するのを企んでいる誰かがいる

 俺は拳を握りしめたまま、誰に怒りをぶつけていいのかわからない。

「遥、行くよ」

 空に促され歩き出した俺の怒りは、不安と心配に変わっていく。

「詩月くんは大丈夫よ。今までだって大丈夫だったもの」

 席に着いた俺の隣の席で聞き覚えのある声がし、顔を向け首を傾げる。

小百合(さゆり)千住小百合(せんじゅさゆり)。名前くらいおぼえていてくれたっていいでしょ!? 毎回、最前列で応援しているし、デコッた名札も着けているのに」

CMモニターの女の子だった。

「おばあちゃんが詩月くんのヴァイオリンの師匠だったの。おばあちゃんは千住百合子(ゆりこ)。詩月くんは『リリィ』と呼んでいたけど。詩月くんのことは、おばあちゃんからよく聞いていたの。『彼には私のヴァイオリンの全てを教えた。彼はどんな状況でも、最高の演奏をする。彼の演奏の先には必ず、聴き手がいるから』って」