「音色はポーカーフェイスではないんだな」

 空は不思議そうに言う。

「音色がポーカーフェイスではない、どういうこと?」

「うん。あの人、なんか近寄りがたい雰囲気だっただろ。何考えているかわからない感じの」

「あの澄ました感じ。とっつきにくそやし、めっちゃ生意気そやったな」

1人、ひねた発言をしている昴の言葉は右から左に流し、空との会話を続ける。

「ん……それだけ客層が広いのは、演奏や音色が感情豊かなんだよ」

「感情が演奏や音色の豊かさに関係あるの?」

「ピアノを習っていた時に、先生がよく『もっと歌わせなさい』とか『もっと気持ちを入れて』とか、言っていたよ」

 俺たちが話しているとダンス講師がドアを開け、いきなりがなり立てた。

「何している、レッスン始めるぞ」

「はい」

 慌ててストレッチを始めた俺たちに、ダンス講師から雷と嵐の説教が落ちた。

「この人はレッスンしないんですか?」

 俺は雷を落とされたばかりなのに懲りもせず、ポスターの周桜詩月を指して訊ねる。

「周桜詩月のレッスン参加は、一切聞いていない」

 俺たちはすげない返事に、彼とコラボし何をさせられるのか? 不安と期待でいっぱいだった。