いつも元気で「よし、いくぜーっ」と、やる気を出せば頑張れる、そんな当たり前が詩月さんの話を聞き、本当はラッキーなことだと感じた。

全力で頑張れることが、どれだけ大変で幸運かを考えた。

そして一生懸命な人には敵わないと思った。

「目標を自覚する時、才能は劇的に伸びる」と言った詩月さんの確信は他の誰かが言えば、きっと「偉そうに、何カッコつけているんだ」と思ったかもしれない。

 詩月さんは俺の腕に凭れかかり起こすのが可哀想なくらい、ぐっすりと眠っている。

俺たちXCEON3人を圧倒し、撮影方針まで変えさせたオーラがすっかり消え、別人を見ている気がする。

桃香さんはスタジオの最寄駅を素通りし、後部座席をミラー越しに確認する。

「遥、安坂くんに横浜駅まで迎えに来るよう連絡して。その様子で、電車を乗り継いで帰えれとは言えないわ。途中で倒れでもしたら」

 俺は急いで「詩月さんを迎えに来て」とメールした。折り返しメールが来たのは5分後だった。