移動中の車の中。

 周桜さんは俺の隣に座り、ぐったりしていた。

「周桜さん、寄り掛かっていいよ」

「ん、ありがとう。……『詩月』でいい」

 周桜……詩月さんは呟き、俺の腕にコテンと凭れかかった。

「えっ」と思う間もなく、寝息が聞こえる。

 ――めちゃくちゃ疲れてたんじゃん

 体重を腕に感じて思う。

着替えをしている時に見えた幾つもの痛々しい胸の傷痕。

「入退院の繰り返しで」と語った寂しそうな顔が忘れられない。

俺は学校に通いたくても通えない、勉強したくても勉強できない人がいることを教えられた。

疲れきり、俺に体を預けているのが嘘だろうと思う。

撮影中の詩月さんの半端ないオーラに感じた悔しさは何だったのかと肩透かしを食らったように思うのに、敵わないと思った。