Nフィルポスターに写った彼は澄まし顔で、まるで別人だった。

「あの人、お母さんがオーストリア人なんだな。どうりで綺麗な顔しているはずだ。でもこの間、生で見た時は、僕らとあまり年が変わらないくらいに見えたよな」

「そうだね。演奏しいてる時と、普段が違うのかな。去年の秋から、コンサートチケットが完売で満席」

「そんなん演奏のスゴさだけちゃうやろ。親の七光りとか、見た目の良さとかも人気に関係あるんちゃう!?」

 俺は(すばる)を無視して続ける。

「毎回コンサートで観客が総立ち。夏まではがら空きだったオーケストラがだよ」

空はNフィルコンサートのパンフレットと、俺がパソコンで調べプリントアウトした情報を漁るようにページを繰る。

「えっ!? あの人が入ってからずっとということか?」

「うん、そう。それに客層も子供から年寄りまで幅広く」