詩月さんのエレキヴァイオリンの音色が、異なるそれぞれの楽器を見事にリードする。

詩月さんの全てを包み込むヴァイオリンの調べと俺たちの歌が、夏の日射し照りつけるビル街に響き渡った。

 だけど安坂さんは歌の間奏で、詩月さんのエレキヴァイオリンを弾いていた「シレーナ」と交換した。

「『シレーナ』はお前でなければ活かせない。お前の演奏でしか『シレーナ』の音は煌めかない」

 詩月さんは安坂さんから「シレーナ」を受け取ると、ドキッとする笑顔を見せた。

詩月さんが弾く「シレーナ」の音色は、大学オケ部コンサートマスターの安坂さんが弾いていた時とは全く違っていた。

詩月さんが「オルフェウス」と呼ぶ大学裏門の男神像の姿が、詩月さんと重なる。俺は目を何度も擦り、詩月さんの姿を確かめた。