風は囁く「君と輝きたいから」

周桜くんはピアノを弾きながら、緒方さんに何か話しかけている。

緒方さんが何度も頷く。


「ベートーベンのロマンス2番は、ショパンの夜想曲ほど甘くないし、切なくもない、涙が溢れるほど激しい感情を感じる曲でもない。
なのに、周桜のロマンス2番は何でこんなにも激しく切ないんだ?」

安坂さんが首を傾げながら、周桜くんと緒方さんの演奏をじっと聴いている。

曲は終盤。
緒方さんの音がピタリと止まる。


「!?……緒方、演奏中だ……」

周桜くんの声。


「厳しいな、周桜は……。だが、これがコンクールなら確実に失格だ。舞台上の演奏家なら、演奏放棄だ」


「そんなっ」


「郁はともかく、周桜はいつもそれくらい真剣に演奏している」

安坂さんの目は、真剣を通り越し鋭い。


「弾きたくないなら、中断しようが、放棄しようが勝手だ。
……でも、そうでないなら最後まで弾き通せ」