風は囁く「君と輝きたいから」

安坂さんは一呼吸、間を置いて再び話し出す。


「5年前のコンクールで「雨だれ」を弾いて周桜に負けて以来ずっと、自分の才能に自信が持てなくなってるんだよな」

安坂さんは緒方さんを見つめている。


「周桜の演奏は聴くたびに上手くなる。周桜が過ごしてきた環境や様々な葛藤が、どれほど周桜を成長させたのか」

安坂さんは珈琲を1口啜り、更に続ける。


「周桜は転校早々、風と共に去りぬのラストの台詞を「絶望から希望は生まれる」と英訳したそうだ」


「風と共に去りぬのラスト……『Tomorrow is another day』を?」


「ああ、そうだ。周桜のピアノは頼りなくて儚げで危なげで、自信なさげで自暴自棄で、聴いているのが辛かったんだが。周桜の演奏はその年の初冬、劇的に変わった。あれから僅か1年余り、今は頼りなかったことなど信じられない。
何処まで成長するのか。何処まで才能を伸ばすのか。演奏を聴くたび恐いくらいだ。隣で同じ曲を弾いていれば、尚更だろう」

周桜くんの美しいピアノの音色に、胸が締めつけられる。