風は囁く「君と輝きたいから」

「あーっ、緒方。連弾しないか?」

周桜くんは緒方さんの言葉を遮り、早口で言う。


「いいわね」

周桜くんはホッとした顔で息をつき、再びチラと安坂さんを見る。

安坂さんはどっしりと構え笑顔で座っている。

周桜くんはガタンと立ち上り、澄まし顔でピアノに向かったけれど、左手はキュッと拳を握りしめていた。


「余裕かよ」

内緒声の呟きが聞こえてしまった。


「合わせるから適当に弾いていい」


「わかったわ」

緒方さんの声が明るく弾んでいる。

店の中央に澱と構えた、黒塗りのスタインウェイのグランドピアノ。


「周桜がここの常連になったのは、郁がショパンの『雨だれ』をリクエストしたのがきっかけなんだ」

安坂さんは交互に、緒方さんと周桜くんを見る。

周桜くんと緒方さんが、肩を寄せ合う。
緒方さんが指を構え深呼吸し、ピアノを弾き始める。