俺は咄嗟に、郁子さんの手を取り走っていた。

受付の職員の慌てた声や、通路の看護師や介助士の戸惑う様子を振り切って……。

ヴァイオリンの音色が、静かに降り注ぐ雨のように、心の奥底に染み渡っていく。

勢いよく開けた病室の扉の先に、桃香さんはいた。
満面の笑みを浮かべて。


「詩月、あなたはローレライではないわ。観てるから。わたしはずっとXceon(エクシオン)とあなたを応援しているから。昴、遥、空、詩月。頑張って、誰よりも輝きなさい」

桃香さんの凛とした力強く優しい声。
俺たちは誰かれともなく、嗚咽しながら、桃香さんに駆け寄っていた。