風は囁く「君と輝きたいから」

郁子さんは待合室のソファーに、そっと座る。


「周桜くんは『ローレライ』のこと、さらっと交わしたけれど、そんな簡単に割り切れるような言葉ではないのよ」

郁子さんが淡々と話す。


「あなたとは競演したくないなんて、演奏家が1番聞きたくない言葉だわ」


「……演奏家でなくても聞きたくない」

空がポツリ。


「Nフィルコンサートの後、真っ赤な文字の楽譜を見た時……どれだけ耐えてるんだろうと思ったら、踏みこんじゃいけない気がしたの」


「えっと……小百合さんが抱きついた時のこと?」


「周桜くんの熱狂的なファンなんだろうと思ってた……リリィ、周桜くんの元師匠のお孫さんだなんて思わなかった」

郁子さんの声のトーンが下がる。


「詩月さんは、誰に抱きつかれたかも憶えてなかったよ」