少々のことで、へこたれるようなヤワな人じゃない。

そう思っていた。

フローラ化粧品、春のCMが出来あがった頃から、桃香さんが考え込むような顔をしていることが多かったのは、気づいていた。

上司とたまに、言い合いしていることも聞いていた。

だけど……納得できない。


「何でだよ。何で……周桜さんも、舞園さんも」

空の拳が宙を切る。


――泣きたいほどの辛さ、死にたいほどの辛さを話してもらえなかったなんて……


何もできなかったことへの苛立ち、情けなさや悔しさ、不甲斐なさ……様々な思いにかられる。

空がタクシーを拾って、3人で病院へ向かう。

静かだった。
誰も口を開かない。
押し黙ったままだった。

俺は、詩月さんが寝ぼけて「ローレライ」と呟いた時、桃香さんが驚いた様子もなく、冷静だったことを思い出していた。