風は囁く「君と輝きたいから」

「それに、いつもはガダニーニを弾くのに、月命日にはリリィのヴァイオリン『グルネリ』を弾くんだ」


「『懐かしい土地の思い出』はね、リリィさんがエリザベートコンクールのファイナルで弾きたかった曲なの」

緒方さんはそう言いながら、周桜くんを見守るような顔をして、演奏を聴いている。

周桜くんは、街頭演奏の時ともNフィルの時とも違う表情で、ヴァイオリンを弾いている。

叙情的でノスタルジックな調べが、切なく優しく店内を包む。


「へぇ~、先月よりも表現が豊かになったな」

安坂さんが、染々言いながら腕組みをする。


「そうね。深みが増したわね」

緒方さんは周桜くんを、うっとりしたような表情で見つめている。


「毎回何かしら弾き方が違うんだよな」


「週刊誌や動画のことがあって、Nフィルの人達と仲良くなれたことが音色を変えたのかしら」

周桜くんを見つめる緒方さんの眼差しが、安坂さんと話す時とは明らかに違う。

周桜くんはユリの花を生けた席を見つめて、曲を奏でる。