「母さんの、ことなんだけど」
「おう」
「俺、昔から…母さんに嫌われてるんだ」
母さんに優しくされたことなんて、ひとつもない。
褒められたこともなければ、笑ってくれたことすら一度もなかった。
テストで良い点をとっても、リレーで一位になっても、自分の絵の作品が選ばれても、
長男だから。
私の子だから、出来て当たり前。
それが母さんの口癖だった。
そのくせ、蒼が何かをすると、これでもかというくらい褒めまくった。
他の弟にも同じ。
俺だけが、母さんに認められることはなかった。
それでも、俺は弟を憎いだとか嫌いだと思ったことは一度もなかった。
仕事で忙しくてあまり帰って来ない母さんの代わりに、俺が守ってやんなきゃって、思ってたから。
唯一、俺を必要としてくれてる家族だったから。



