母さんは、小さい頃から俺に厳しく当たってきた。
長男だから、それは仕方ないと思ってきた。
だけど蒼や弟達には、いつだって優しい笑顔を向ける。
俺に笑いかけるなんてことは、一度もなかった。
そのうち、長男だから厳しいんじゃなくて、俺が嫌いだから厳しくするんだってことに気づいた。
出来の悪い長男だから、母さんはきっと嫌いになったんだ。
「蒼、俺は平気だから」
「……分かった」
くるりと俺に背を向けて、蒼は母さんの元に向かった。
蒼が話しかけた瞬間、母さんの目が大きく見開いて、そこから大粒の涙が零れた。
そして二人で笑いあって話す様子を、俺は一人離れたところで見ていた。
よかった。
母さん、やっと笑ってくれた。
俺と話すと、あんな風にはいかない。
母さんは俺と話す時は、眉間にシワを寄せるから。
蒼と話すようになった母さんは、まるで別人のように明るくなった。
何かに吹っ切れたように。
母さんを取り囲む弟達。
それを外から見る俺。
俺は、あの中に入ってはいけない。
あの中に入ったら、一瞬にして崩れてしまうから。



