無理に全てを断ち切る必要はない
その言葉が私にはとてもありがたかった。
遅かれ早かれいずれは全てを忘れてしまうだろう。
でも極僅かでも残っている思い出は私にとっては特別なものだ。
それを出来る限り覚えていたい。
忘れてしまっても暖かい思い出が存在していたという事だけは覚えていたい。
『いつか・・・エリーゼ様は元の世界について忘れてしまう事でしょう。ですが、私が今日聞いた事は私が一生覚えています。もしこれからもエリーゼ様が元の世界の事について私に話して下さったのならば、私はそれを忘れる事は絶対にありません。エリーゼ様の代わりに私が、エリーゼ様の元の世界の事を覚えておきます』
「グレンさん・・・」
私は何も言う事が出来なかった。
どうしてこの人は私にこんなにも優しいのだろう。
私は人に優しくしてもらう資格なんてないというのに。
この世界の人の心は私には考えられないぐらい綺麗なものばかりだ。
この世界も私が住んでいた世界より綺麗だ。
空気も、空も、何もかも比べものにならないくらい綺麗。
私とは、私のいた世界とは違う事を見せつけられる。
この世界で生まれ、暮らしていたのならば、私もこんな人間にならなかったのだろうか。
人を、それも大切な人ばかり傷つけ、そして逃げ出したくてたまらないような卑怯で汚い人間になる事はなかったのだろうか。

