弾・丸・翔・子

 その白さが恐怖を増幅させることもある。『NASA』からやってきたような白い防護服の男達が、慎重に事務内の洗浄処理をしている。事務所からかなりの距離を置いて規制ラインが引かれた。その外側は、管轄のパトカーや消防車が集結し、それを取り囲むように野次馬達が立ち並んでいたから、付近は祭りのように騒然としている。規制ラインの内側にいる人々のほとんどが、防毒マスクと全身防護服を身につけていることが、ラインの外にいる人々の恐怖心を煽った。この危険な区域に一般の車が迷いこまないように、事件現場へ入る路地のすべての入り口では、白いヘルメットの隊員が白バイを傍らに置いて忙しく車両規制をしている。
「凄げぇ、ホンダ(VFR)の800から、スズキ(GSF)の1200に乗り換えたんですか?」
 通りかかったバイク便の若者が、白バイ隊員に話しかける。最初は威厳を保つためにしかめ面だった白バイ隊員も、話しかけられた相手が顔見知りだとわかると、相好を崩して応えた。
「わかるか次郎…。」
 待ちに待った新車両が支給され、誰かれ構わず自慢したい白バイ隊員ではあったが、今自分は制服を着ている事を想い出し思いとどまった。
「現場で話しかけるなって言っただろう。」
「副長、何があったんすか。」
「おい…。」
「なんスか?副長。」
「お互い、もういい大人なんだから、もうその副長ってのは…。」
「ガキの頃、さんざんそう呼ばせといて…今さら哲平さんなんて呼べませんよ。」
「過去は忘れろ。」
「だから、何があったスか?副長。」
「チッ…、官が民にべらべら話せると思うか。」
「官だ民だと訳分からないこと言わないでくださいよ。暴走族時代、哲平さんのケツを守って走っていたのは自分ですよ。」
 哲平は口をつぐんで黙ったままだ。
「だったら、副長の命令でナンパした女の数をここで言いましょうか。」
 次郎の口をふさがなければまずいことになる。さすがの哲平も口を開かざるを得なくなった。
「…バイク便の荷物に毒ガスが仕込まれていたらしい。事務所の若い衆が三人死んだ。荷物届けたお前らの仲間も巻き込まれて亡くなったそうだ。」
「そうすか…。どこの便のライダーだろう。」
 同業者の悲劇に次郎もしばし言葉を失った。
「ところで、今度の団長の命日ですけど…、墓参り行きます?」
「そうか、もうそんな時期か…。」