凪の海

 手紙は約束通り写真が同封されていた。白い鉢巻に白のシャツ、そしてブルマー。スラリと伸びた健康的な足に足首までのソックスと運動靴。活発に明るく笑う女子高生。しかしそれが、8人ほど写っているのだ。どうも何かの運動大会に入賞した記念撮影らしい。
『先日体育祭で、友達の父兄に撮って頂いた写真です。私だけ映っている適当な写真が無いのでこの写真をお送りいたします。どれが私であるか、当ててみてください。ミチエ』
 泰滋は8人のうちの誰がミチエであるか、あえて突っ込んで聞くつもりはなかった。そんな質問は意味が無いような気がしたのだ。泰滋は苦笑いしながら、ミチエは誰であるか目星を付ける。それは、根拠のある推察と言うよりは、この子であって欲しいという願望意外なにものでない。この子であって欲しいが、しかしたとえその子ではなくても、自分が手紙を書く理由に、その子でなければならない理由はない。あくまでもこれは自分の訓練なのだから。
 実際のところその日以来、泰滋の手紙のペンのスピードが速まり、筆圧が高まったのであるが、本人は自覚していなかったようだ。

 その後も定期的に泰滋からの手紙は届いた。ミチエは、その手紙を読む時に写真を机の上に立てて読む習慣が出来た。読みながら、写真を見ると、写真の中の彼がまるで語っているように感じるのだ。残念ながらその声は聞いたことがないのだが、たとえそれが想像上の声だとしても、ミチエの耳にははっきりと聞こえてきた。
 相変わらず日々の暮らしの中から、泰滋が感じ考えたことが、淡々と、そして楽しく綴られている。返事を強要するような手紙はない。それが、ミチエにはありがたかった。あまりにも激しい練習で疲れきって帰宅した時、布団に倒れ込む前に机から写真と手紙を取り出して、前に来た手紙を繰り返し読むこともある。まるで、写真の中の彼が自分を優しくいたわり、そして励ましてくれているかのように感じる。いつしか彼が、ミチエにとってそんな近しい男性になっていたのだが、バスケ一筋で過ごしていたミチエにとっては、それが恋への入口なのだとは微塵も思うことができなかった。