香奈恵ちゃんが先に出て行った教室は他の人もちょうどいなくて私一人。

 どこからか人の声は聞こえるのに誰もいない教室は何だか寂しい。

 翼の様子が気になるし私も帰ろうとドアへと顔を向けて足を動かそうとしたけれど、勢いよく開かれたドアに私の体ははねた。

 ドアを開けた人は相原君で、急いできたのか軽く息をきらしながら教室に入ってくる。

 何か言わなくちゃと思っていると相原君がいつの間にか私のすぐ近くまで来て。

「ごめん!」

 と勢いよく頭を下げられてしまった。

「あっ、相原君……?」

 いきなりのことで名前を呼ぶことしかできない私を頭を上げた相原君が見上げてくる。

 相原君は困ったような顔をして唇を動かした。

「最後のリレーで勝てなくてほんとにごめん! 願掛けさせてもらっていいことまで言ったのにさ……」

 右手で髪の毛をクシャクシャと触る相原君に私はううん、と首を横に振った。

 負けたのは残念だと思う。だけど風のように速く走る相原君はすごく印象的だったから。

「謝らないで? 走ってる時の相原君、風みたいですごいよかったから」

 野中君と順位を争っていた時のことを思い出すとするりと言葉が出てきて言えて不思議な気持ち。

 私が自分の気持ちを伝えると相原君は目を丸くしたあとにふっと細めて笑ってくれる。

「ありがとな。そんな風に言ってもらえると照れるけど嬉しいかもしれない。来年また同じクラスになれたらその時はリベンジするから」

 「応援してくれる?」と首を傾げる相原君に私はうん、と大きく頷いた。

 相原君ならきっとどのクラスになっても一生懸命走ると思うし、去年みたいに野中君と同じでもそうなんだろうな。

 だけど、叶うならまた相原君と野中君の競争を見てみたいと今日のリレーのシーンを浮かべながら思った。