「走れー相原ー!」

 誰かの叫ぶような声に心臓のドキドキがもっと強くなる。

 先にアンカーとして走り出したのは相原君。

 D組はバトンパスのタイミングがずれてしまったみたいでその間に相原君がスタートダッシュを決める。

「うわっ、D組のやつ速ぇー」

「相原負けんなー!」

 上位争いの二人が私達のテントの側へと近づいてくる。

 インコースを走る相原君とすぐななめ後ろについて走る野中君。

 風みたいにあっという間にテントの前を通り過ぎた二人だったけど二人の表情には違いがあった。

「相原くん辛そうだね……」

「うん……」

 まだ余裕がありそうな野中君に比べて相原君は苦しそうだった。

 眉を寄せて表情を歪ませていた相原君は一生懸命走ってるんだと思う。

 このままゴールできたらいいのに。

 そう思ったけどこれはやっぱり競争で、野中君がそのまま後ろを走っていることはなかった。

 スピードが落ちてきた相原君をすっと抜かして野中君は余裕でゴール。

 相原君も少し遅れて二番でゴール。
 背中を丸めるように立っていて苦しそうな相原君に野中君が肩に手を置いているのが分かる。

 それから次々と三位から五位までの組もゴールして終わりを知らせるピストルが鳴った。

 爆発したように盛り上がる隣のテントに負けないくらいに私達のテントも声があふれたけど、相原君達を責めるような声は聞こえなくて。

「戻ってきたら励まそうぜ」

「だな。あのD組のアンカーじゃほとんどのヤツは勝てねぇよ」

「しかもあのアンカー帰宅部らしいよ」

「マジか。相原もだけど信じられん」

 近くの何人かが話しているのを聞きながら私も何か声をかけられたらいいのにと思った。