相原君は今日も笑顔で


 どうしようと困っているうちに先輩達に声をかけられた相原君が地面を踏みしめる音をたてて背中を向けてしまう。

 気分を悪くしてしまったかもしれない。そう思ってよけい困ってしまう私に相原君が振り向いた。

 リレーに出る人みんながこっちを向いて、その中で相原君が目を細める。

「俺達が走るのを見てて? みんなが見ててくれるって思うと頑張れるから――じゃあ行ってきます……!」

 今度は振り向くことなく他の出場生徒と一緒に歩いていく相原君。

 遠くなる背中に何も言えなくて胸がなんだか少し苦しくなった。


***


「いよいよ最後の男子対抗リレーが始まります!」

 選手がそれぞれグラウンドの定位置に待機し始めるとアナウンスがひときわ大きく響きわたっていく。

 最後の種目だからかアナウンスにも熱が入っているようで、元気な声で出場選手の学年と名前を言っていく。

 D組からはやっぱり野中君がリレー出場選手の一人でしかも相原君と同じアンカー。

 並んで立っている二人は身長差があるのが遠くからでも分かる。

 相原君は私を抱き上げて走っても速かった。だけど体育の時間に見た野中君も速くてリレーの結果がどうなるのか分からない。

「位置について! ――よーい……」

 先生のかけ声を合図に静かな空気が広がって私は胸の前で両手をギュッと握り合わせる。

 それから間もなく聞こえたピストル音と第一走者の五人が走り出した足音が耳の感覚を奪う。