相原君は今日も笑顔で


 そのまま少し間があって、リレーに出場する生徒は指定の場所に集まるようにと放送がはいる。

 相原君の後ろに立っている先輩達と一年生が放送が聞こえるほうへと顔を向けたと思ったら腕を強く引かれて前のめりに体が動く。

 相原君の顔が近くなったと思ったら見えなくなって、香奈恵ちゃんの「わっ」と驚いたような声がすぐ後ろから聞こえてきた。

 何が起きたの……?

 少し屈んだ状態で体に腕をまわされているのはこめられた力で分かる。

 だけどそれは少しの時間で終わり、腕を離して体の距離をとったのは頬が少し赤くなった相原君で。

 私もかぁっと顔が熱くなった。

 まわりから聞こえてくる声にますます恥ずかしいのに隠れる場所がなくて私は地面を見つめるしかごまかす方法がない。

「急にごめん。この方がもっとあやかれると思ったし、自分勝手だけど俺、野中に負けたくないからさ」

「――相原君……」

 いつも聞いているものよりもトーンが低い声に思わず顔を上げてしまう私。

 そこにはもう頬を赤くしていた男の子はいなくて、かわりに真剣そうな表情をした相原君がいた。

 たれ気味な目の印象や姿は相原君なのに、何だか姿がそっくりな違う人を見ているような気がして言葉が出てこない。

 何か言わなきゃ、そう思うのに私の口は少し開いてまた閉じる。

 こんな時香奈恵ちゃんになれたらいいのにって思ってしまう。

 香奈恵ちゃんならきっとニコッと笑顔で応援の言葉をかけられるんだろう。

 だけど私には応援する一言もとっさに上手く言えなくて。