「どうしよう……」
待っているのはいいんだけど、その間何もしないのはダメだよね……?
どうしようかキョロキョロと辺りを見ていたら前の方から佐藤先生が歩いてきた。
私の目の前まできた先生は手にストップウォッチを持っている。
「あの二人の相手は大変だな」
「いえ……。香奈恵ちゃんも相原君も話しかけてくれるので嬉しいです」
「そうかそうか。――話は変わるが三崎は他の競技を希望しなくてよかったのか?」
「去年は中距離に出てただろう?」と聞いてくる先生に首を横に振る。
「去年はお願いされたので。運動は得意ではないので複数の種目に出ても組の点数を下げてしまいます」
私よりも足が速い人や運動が得意な人はたくさんいるはず。
そう思って先生を見ると先生は困っているような顔をして、それからストップウォッチを持っていないほうの手を私に近づけてくる。
様子を見ているとやがて先生は笑って近づけてきた大きな手を私の頭にのせた。
ポンポンと軽く叩くようになでられて驚いた。
「先生……?」
「そんなに落ちこまなくていい。誰にだって得意不得意はあるからな。――それに相原が言っていたように三崎が出る種目は誰が先にゴールできるかわからないから上位をとれる可能性がある。あまり気を張らずにいたほうがいいぞ」
「――ありがとうございます」
先生にまで励ましてもらうなんて、気を遣ってもらって謝りたいような嬉しいような。
何とも言えない気持ちのまま私はお礼の言葉を出した。
「とりあえず二人が戻ってくるまで分かれてやってる別のほうの百メートル走のタイムを計測してもらうか」
「分かりました」
先生からストップウォッチを手渡されて受けとった私は、遠くでこちらに手を振る香奈恵ちゃんにストップウォッチを持った手で振り返した。