私は相原君と違ってそんな風に明るく返せないし、競技で一番をとるなんて自信もなくて夢のような話。

「――三崎、この競技ってさ一番をとれるチャンスがあるラッキーな競技なんだ」

「え……」

 相原君の話に私はまた彼の顔を見るように視線を動かす。

 相原君は笑顔のままで私を真っ直ぐ見ていて、長く自分を見られていることに不安以外に恥ずかしさが生まれて顔が熱くなる。

「去年、俺のクラスの人が一組目のレースで走って一位をとったんだ。その人は運動がすごい苦手らしくてさ、一位になったのを知ったら泣きそうになりながら笑ってた」

「……苦手なのに一位に?」

「ああ。だからこの競技は運動が苦手でも得意でも一番になるチャンスがある。お互い頑張ろうぜ!」

「相原君……」

 後ろ向きな私に明るく話してくれる相原君。

 励ましてくれてありがとうとお礼を言おう思ったら声に出す前にゴホンとせき払いが聞こえてきて。

 聞こえてきた前の方に顔を動かせば佐藤先生が口ににぎりこぶしを近づけていた。

「あー、相原。三崎を励ますのはいいことだがそろそろいいか?」

「えっ、あ、すみません……!」

 パッと手を包まれていた感覚がなくなってもう一度相原君を見ると彼は両手で自分の髪の毛をくしゃくしゃにした。

 と思ったら今度は片手で口元を隠して私の方を見る。

 恐る恐るといった感じでまるで怒られた相手の様子をうかがっているみたいだけど、頬が赤くなっていて私も思わず顔に熱が集まる。

「ごめん……」

「……ううん。色々言ってくれてありがとう」

 違う競技の出場者決めを始めた先生の声とクラスのみんなのにぎわう声を耳に入れながら、私は小声で相原君へとそう返した。