「可愛い見た目で人形(ドール)くんって言われてるけど、相原くんって度胸あるんだね」
――授業が終わるチャイムが鳴るまで相原君は先生に頻繁に見られていたけれど、それから眠ることはなかった。
お昼ご飯の時間を迎え、慣れたように香奈恵ちゃんが私の前の席を借りて机をくっつけると感心したように言う。
私は鞄からお弁当を机の上に出しながら「うーん」と曖昧にしか返せない。
確かに度胸があるというか勇気があるというか。
でもやっぱり授業中の居眠りは良いことじゃないと思うから、どうしても私は香奈恵ちゃんのようには思えないかな。
思わず眉を寄せてしまう私に香奈恵ちゃんが眉を下げたようにして笑う。
「葵ちゃんは真面目ですごいなぁ。わたし、いつもお母さんに葵ちゃんを見習いなさいって言われるんだ」
「すごくなんてないよ? 私は香奈恵ちゃんみたいになりたいし……」
クラスの女子の中で一番背が高い私にとって小柄で可愛らしい香奈恵ちゃんは特に憧れの女の子。
他の女子も可愛くてオシャレで羨ましい。
「ありがとう!」とぱっと笑ってからパンを口に運び始めた香奈恵ちゃんに私も笑い返してお弁当に箸をつけていく。
……可愛いと言えば相原君はよく女子達、上級生を中心にそう言われることが多いみたい。
去年の学校祭で相原君のクラスで行われた男女の格好を逆転させた模擬店が好評だったらしくて、相原君は女装がよく似合っていてそれから人形くんって呼ばれているそうだ。
男の子なのに可愛いとか人形くんって呼ばれて嫌じゃないのかな?
そう心の中で思いながら私は香奈恵ちゃんとお昼ご飯を食べていった。

