「坂本何すんの?」
「それはこっちのセリフだから! 葵ちゃんに近づかないでよね!」
「かっ、香奈恵ちゃん?」
眉を寄せて不機嫌そうに香奈恵ちゃんを見る彼に香奈恵ちゃんも怒っているような顔で言い返すと私にギュッと抱きついた。
「葵ちゃんが優しいのは前から知ってるもん。遊び相手なら他の子にしてよね!」
「早くあっち行って」と私の体に腕を回したまま眉を寄せて相手を睨む香奈恵ちゃん。
彼は何か言いたそうに口を動かしたけど何も言うことなく離れていった。
「ごめんね」
「私のほうこそいきなり触ったりしてごめんね」
「全然気にしてないよ! 昨日ちょっと夜更かししちゃっただけだから大丈夫。心配してくれてありがと!」
「ううん。大丈夫ならよかった」
調子が悪くないことと触ったことに気にしてないと言われて体の力が抜ける。
腕を離した香奈恵ちゃんは私達から離れた後に窓際で話をしている彼をちらりと見て眉を寄せた。
向こうはこっちが見ているのに気づくと笑顔で右手をヒラヒラと軽く振ってくる。
少し前にあったことなんてまるでないみたいな笑顔ですごいなと思う。
「うわぁ……。葵ちゃん気をつけた方がいいよ。あの人一年生の時から手が早いって有名だから」
声を小さくしてそう言う香奈恵ちゃんに私は首を横に振る。
「うーん、私より香奈恵ちゃんじゃないかな……」

