いつまでもこっちを見ながら手を振って歩みが進まない相原君を見た野中君。

 彼が眉を寄せたと思ったら相原君に近づいて袋を持っていた左手を引いた。

「野中?」

「きりがないから行くぞ。――二人とも騒がしくしてごめんね」

 ペコ、と軽く頭を下げた野中君は私と香奈恵ちゃんが言葉を返す前にスタスタと速い足どりで相原君を引きずるように連れて遠くなっていった。

「行っちゃった……」

「でも野中君と話せてよかったね」

「うんっ。偶然だけど嬉しい!」

 頬を赤くしたままとても嬉しそうな香奈恵ちゃん。

「相原君と仲がよさそうだから去年と違って会えるかもしれないよ」

「そうだよね……――よしっ、去年より接点ありそうだからチャンスはあるよね」

 「頑張るぞー!」と張り切る香奈恵ちゃんに「応援してるね」と返したけれど野中君に夢中な香奈恵ちゃんには聞こえなかったみたい。

 この後CDを買うことを思い出して慌ててお店に入り直す香奈恵ちゃんを、私は「行ってらっしゃい」と静かに見送った。