「お店の中に野中くんがいた!」
「野中君……?」
手を顔から離した香奈恵ちゃんの頬が赤くなっているのを見ながら私は聞いたことのある名前を思い出そうと考える。
「えっと、一年生の時に香奈恵ちゃんが言ってた男の子だったよね……?」
「そうそう! あの時の野中くん!」
一年生の時に移動教室からの帰り、階段で転びそうになった香奈恵ちゃんを支えてくれたという男の子。
その時私は先生に用事を頼まれて近くにはいなかったから後から香奈恵ちゃんに話を聞いたけど近くで見たことはなくて。
香奈恵ちゃんからその人の話を聞いたのは久しぶりだった。
鞄からコンパクトミラーをとり出して髪の毛を気にし始める香奈恵ちゃんを可愛いなと見ていたら、お店から男子学生が二人出てきたのに気づく。
近づいてきた一人は背が高く、黒いサラサラした髪とやや切れ長の目で眼鏡が似合いそうな印象の人で広人さんに似ているなと思う。
それから隣の人を見て私は「あっ」と声を出してしまった。
目を丸くしたような相手も「あっ」と声を出して私と彼――相原君は同時にお互いの名前を呼んだ。

