今だって上手く何かを言って家の前で別れて、ご飯の準備をしなきゃいけないのに。
だけど翼の不調を理由に話すこともできなくて。
歪む視界をごまかすようにギュッと強く目を閉じると右手に温かさを感じて体がピクリと動く。
「三崎」と目を閉じる前より近くに聞こえた相原君の優しそうな声におそるおそる目を開ける。
すると右手を包むように触れている左手があって、手からたどった先には相原君の笑顔。
相原君は手を離すとまた左右の手に一つずつ買い物袋を持って視線を斜めにそらした。
「たしかに三崎みたいにバイトのことをくわしく知ってる人はいるかもしれない。けどさ、俺が話して三崎がちゃんと返してくれたのすごい嬉しいから」
「え……?」
「俺って授業中に居眠りすることあるし、正直テストとかの成績もあんまりよくなくてさ。一年生の時にクラスメイトに話したらお前には無理だろって笑われた」
「相原君……」

