相原君は今日も笑顔で


 何かないかと頭を働かせていると四年前に私が通う高校を卒業した近所に住んでいた人を思い出した。

 広人(ひろと)さんは私や翼にとって小さい時からお兄さんみたいな存在で、黒いサラサラした髪、切れ長の目に細いフレームの眼鏡がよく似合う人。

 広人さんは有名な大学への進学を目指していて部活には入らずに勉強に力を入れていたみたいでアルバイトもしていなかったそうだ。

 だけど私が中学生になった夏休みのある日、家の近くで会った時に欲しい物があって夏休みの間に少しだけアルバイトをするんだと緊張したような笑顔で話してくれた時のことを思い出す。

「――夏休みなら……」

「三崎?」

「夏休みの間だけの希望を出してみたらどうかな?」

「それって許可が出るのか……?」

 相原君が不思議そうに首を傾げているけれど私は言葉を続けた。

 さすがに広人さんのことを詳しく話すわけにはいかないから、数年前に知り合いで夏休みだけアルバイトをしていた人がいたと説明すると相原君の表情がみるみる輝いていく。

「……そうだな、うん。それなら今度の中間と期末のテストを頑張れば望みがあるかも――」