高校の屋上というものは、大概が鍵をかけられているものだ。


それは僕の通うここも例外ではなく、けれど俺の仲間たちは屋上で三時のおやつを楽しんでいる。

普段は静かで絶好のサボり場である屋上も、アイツらが来た瞬間から静寂なんてものは消えてなくなる。


仲間のアイツらこと四人の生徒が座っている位置は、屋上のど真ん中。

自己主張激しすぎかって、僕も思うよ。

けれどそれを当然と思ってるアイツらにいちいち指摘するのも面倒だ。


再三こっちに来いと誘う声を無視して、屋上の隅っこのフェンスにもたれ掛かり青空を見ながら紫煙を燻らす。

吸い込んだ煙を肺に送り込んで、ふと。

そう言えば煙たいって気持ち、いつの間になくなったんだろう。 思い出せないくらい前に、忘れてしまった。


青い空に、白い雲がゆっくりと動く。 白い月が飾りのように浮くのを見つけて、むかし仲間だった誰かが言っていた話を思い出した。

たしか、日中に月が見れた日の夜は満月だとか、なんとか。テキトーに聞いていた話だから、本当かどうかすら怪しいけど。

そんなテキトーなことを思い出すくらいには暇で、頭を動かしていなければ寝てしまいそうだった。


月の話を僕にしたのは、誰だったかな、と。 寝てしまわないために考えて、一人の女性|《ひと》が浮かんだ。

少女と言える年齢で、少女と呼ぶには可愛げのない女性|《ひと》だったけど、僕にはそんな所も含めてぜんぶが可愛く思えた。


けれど、彼女は裏切り者のレッテルをはられた。
誰の興味も関心も引かない、むしろ裏切ったと後ろ指をさされる最後。

あの時、もっと早くに僕が気付いていたら彼女の疑いは晴らせた。

あの時、もっと周りを見ていれば彼女の異変に気付けていた。


そんな、ifの後悔。いつだって僕に付きまとうものだ。


後悔の中では何も生まれないと、分かっている。けれど一年経った今もまだ、考えずにはいられない。

いつかは、こんなぐちゃぐちゃな考えなんか全てなくして、堂々と彼女の前に立ちたいと思うのに。 壊れてしまった彼女を見た後ではきれいさっぱり消え失せて、未だ戻って来る気配はない。



彼女を壊したのは間違いなく俺の仲間のアイツらで、異変に気付けなかったのは誰でもない俺だった。

彼女は心を壊してピクリとも表情を動かせなくなった。 それでも彼女は、俺のせいじゃないと泣いて、そんな彼女だけが俺を甘やかせた。

たった一人の大切な女性|《ひと》だった。


あぁ、また彼女のことを考える。どんなに悩んでも彼女の笑顔は帰らないのに。うだうだと正解のない思考だけが管を巻く。 きっと眠気のせいで調子が狂っているんだ。

いつもなら決して四人の前で思い出すこともないのに。寝れない日々が続いたからか。

一度寝てから、今度は別のことを考えよう。
例えば、アイツらと仲間でいる時間とか。


そうして目を閉じたら、すぐ眠気に襲われた。


騒がしい和気藹々とした声が、だんだん遠のいて行く。




僕はアイツらの仲間。
彼女は裏切り者と呼ばれた。





僕はアイツらの敵、じゃない。
彼女の裏切りは間違い、なんて嘘。

そう、これでいい。