「成くん、今日どうして学校来なかったの?」


「ルイには関係ないよ」


冷えた空間を気にする様子もなく話し掛けてきたルイ。彼女なりに空気を読んだのかな。


取り敢えず、親が子にするように頭をなでた。同情とも言えるその感情から。

愛空を隠すように立つ清を盗み見るとスマホを睨みつけていた。

佇む清からは微かに殺気が……


「……成、これ知ってた?」


「ん?」


撫でていたルイから手を離すと同時に清にスマホを見せられた。


画面にはメールフォルダーと小さく記されていて内容を見ると送り主は黒猫から。


僕と清の親代わりをしてくれている黒猫は基本的に頭のネジぶっ飛んでる人で。

障害とかそういうんじゃなくて普通に一言で表すなら『変人』の分類に入る人。


その黒猫からメールなんて嫌な予感しかしない……


ため息をついて清の手からスマホを受け取る。

下にスライドすると本文が見えて、そこにはーー


『成が拾った奴の元飼い主見つかった。西園寺家の所有物だって言ってこい』


と、書いてあった。

…………なんて俺様なんだろう。

いや、もう、いいや。
黒猫の横暴ぶりにも大分、慣れてるから。


悲しいけど、慣れてるから。


「はぁ、西園寺の名前使うってことは近々アレがあるって事だよね。めんどくせぇ」


「……チッ黒猫、覚えてろ」


物騒な事を言う清は置いといて、智樹に目を向けた。

白羅の中で一番冷静だから。


「智樹、暫く学校行かないからそのつもりでよろしく」


言うことだけ言って早足に逃げた。


多分、あいつらの事だから俺があそこにいたら愛空のことを含め根掘り葉掘り聞くだろう。


仲間だ、とか胸張って言うんならそういうとこ止めて欲しい。本当に。


人には踏み込まれたくない領域ってのがあるんだよ。

それを土足でズカズカ上がり込んで来るあいつらは正直、めんどくさい以外の何物でもない。


「あの、アレ、って何、ですか?」


白羅から逃げてから少しして愛空が聞いてきた。走り慣れていないのか息を切らした愛空は肩を上下に揺らす。


「闇オークションって聞いたことない?
あ、裏パーティーかな?それの事だよ。

さっき自称俺達の父親に近いうちにそこに出ろって言われてさ、もちろん愛空と一緒に」


説明した途端に愛空は顔色を変えた。

元飼い主に買われた時の事でも思い出したのだろう。

逃げた奴隷はみんな揃って同じ反応をするから分かりやすい。

パーティードレス専門店に入ればいらっしゃいませ〜とゆるい挨拶をする定員が顔を赤らめた。

もちろん話そうとは思わないので黙って愛空を引き渡した。


清は前回買った黒いドレスがあるから、多分それで行けると思う。清が嫌がらなければ。


「清、前回のドレス着る?買う?」


「……アレ、黒いの」


店の前で待っていた清に声を掛けるとチラッと店の中を見回した清。


清が小さく指を指したのは黒と白の二色しかないドレスだった。

黒が黒薔薇の刺繍で、白が百合の刺繍で覆われたシンプルなマーメイドドレスだった。


清に似合うか似合わないかで言えばとても似合う。


でも、露出が激しくて肩から腕はもちろん首から背筋にかけて肌が見えている。

当日は薄い黒のベールを肩にかけるけど、たまに大胆だよね、清って。


「ん、ちょっと待っててね。
愛空のドレス見てあげて」


そう言って清が指したドレスを持ってお会計へ

なんか今日はいつも以上に出費が多い気がする。

まぁ、ちょうどカード持ってるし、良かった。