◆







 ――月の光は、人の弱い心を照らし出す。




 月下で白く輝く愛しい人の頬をなでながら、誰がそう言ってたんだっけ、とぼんやり考え込む。



「...もう、忘れちまったな......」



 ベットに腰かけ、窓の外の夜空を見上げながら、ぐびりとボトルごと酒をあおった。
 







 けして抱いてはならない想いだった。



 初めは掌におさまる程度のものだった。



 だからそのまま握りしめ、そっと胸の内に隠しておくつもりだったのに。



 いつしか拳から零れ落ちるようになった。



 溢れて溢れて、隠すことなんてできないくらいに。



 そして同時に、君に同じ思いを向けてほしいという欲が出た。



 それが自分ではない他人に向けられることに嫉妬を覚えるようになった。



 誰よりも傍にいて



 誰よりも長く同じ時間を過ごしているのに



 誰よりも遠い存在で。



 それでも君の『となり』はとても居心地が良かった。



 例えこの気持ちが報われなくても、それでもいいと思えるくらいに。



 そして



 一度その存在を失った。



 その恐怖と絶望と、虚無感を全身で感じた。



 『心が死ぬ』という事の意味を知った。



 だからもう二度と失わないように



 君の『となり』に居れなくてもいい。



 失う事より辛いことはないから。



 だけど



 最後に一度だけ



 溢れ出た想いを



 嘘偽りのない純粋な想いを



 君に伝えたいと思うのは、俺のエゴだろうか。







 静かに眠る白亜の女神に



 漆黒の騎士《ナイト》は



 最初で最後の、心からの告白を。






 額に落とされる口づけは真実の証。

 





 そして、彼は静かに、部屋を後にした。





 ◆




 

『愛してる―――』



 
 その告白は闇夜にすっと溶けて消えていく。



 眠れる女神の目じりには、一筋の涙の跡が残っていた。