ルミアにばれないように、その鋭い眼光のみで



(くだらない用だったらコロス)



 と、エンマに宣言する。



 震えるエンマは、それでも何とか気を持ち直すと、ごくっと喉を鳴らし話し出した。



「...っジ、ジンノ様、大切な朝餉のお時間をわたくしめが邪魔をしてしまい、申し訳ございません」



「驚いた、自覚はあったのか
 そう思うならさっさと要件言って。んで、さっさと出ていけ」



 深々と頭を下げるエンマに対し、やはりジンノは冷たい声を浴びせる。



「兄さん、そこまで言う必要ないじゃない」



 不審に思ったルミアがどうしてそんなに怒っているのかと、ジンノを諫めようとするものの、生憎今は聞く耳を持たないらしく。



 ルミアの言葉を完全無視し、「ほら、早く言え。そして帰れ」とエンマを急かす。



 エンマもびくりと肩を揺らして、早口で用件を伝えって言った。



「は、はい! 実はルミア様の入隊試験の件でお伺いいたしました
 現在地方に出ていらっしゃるオーリング様のご帰還が遅れておりまして、どうやら試験に間に合いそうにないとのことです。いかがなさいますか」



 フェルダンの王族四大分家の一つプロテネス家の現当主であり、ジンノと同じ特殊部隊の副隊長を務めるオーリング。



 彼はつい数週間前の王家が狙われた事件で大暴れし、その件で事件の直後から地方をあちこち飛び回っていた。



 ほとんどの魔法使いは自分の中にある魔力をコントロールして外部に影響を与えるのに対し、王国でも随一の魔法使いである彼は、自然界に既存する魔力を扱う。



 ヒトの扱う魔力と自然界に存在する魔力はその本質が異なり、それを操ることはかなり困難である。



 しかし、彼の一族はそれに関して天性の才を持っていた。



 より自然と近く、共にある存在として、彼らプロテネス家はその力を得たのだ。



 だがやはりその力が不安定であることに変わりはなく。



 普段は特別温厚で明るく過ごしているオーリングだが、前回の戦いでブチ切れてしまった。



 オーリングの《怒り》は最早、《天災》と同じ。



 王都だけでなく、国内全体で暴風が吹き嵐に見舞われ、噴火や地震による地割れ、川の氾濫による洪水災害が起こった。




 それはジンノのおかげで割かしすぐに収まったが、被害報告はすぐにあげられた。



 普段から、王都に滞在するよりも地方の村を転々とし、各地の村の復興作業に専念することが多いオーリング。



 今回ばかりは理性を欠いた自分の責任でもあるという事で、ユニコーンのノアと共に急ピッチで村の復興に向かっているというわけである。