占い師はその写真を手に取る。



 仲睦まじそうに微笑む一家。幸せそうな雰囲気が滲み出た1枚だった。





 黒髪に無精ひげを生やした渋めの父親



 長い黒髪を一つに束ね、妖艶な笑みを浮かべた母親



 その二人の間に挟まれるのはまだ幼い子供二人



 両親とよく似た、少し不愛想な黒髪の男の子と



 その隣で元気いっぱいに笑う、白い髪の女の子




 
 それはジンノがたった一つ、捨てきれなかった『プリ―ストン家』の写真



 まだ彼らが『家族』だった頃を思い出させてくれる、最後の一枚



 
「それに写っている、男と女...大人の方だ。その二人の居場所を、教えてくれ」




 抑揚を抑えたジンノの声。



 その声の固さから、占い師は彼と両親との確執を覗き見る。



「やつらが今、何処に居ようが、何をしていようが俺には興味ないし、関係もない。
 ...だが、国の危機だ。自分たちの存在意義ぐらい全うしてもらわないと困る」



 強いジンノのまなざしに中てられたかのように、占い師は静かに頷いた。





 ◇





「こちらに、書き記しました...この通りの時間に、記された場所で『例の呪文』を唱え下さい。いいですね」



「ああ。...助かった、礼を言う」



 占い師の差しだした紙切れを手に、席を立ち、マントを翻して颯爽と部屋を後にしようとするジンノ。最早ここに居座る必要も無いのだから当然か。



「ジンノ様」



 そんな後ろ姿に突如かけられる声。それにジンノは思わず立ち止まる。



振り返れば、先程まで座っていた占い師が立ち上がり、ゆっくりとジンノの元へと近づいていた。



二人は向き合い、対峙する。



そして占い師は自身の真紅のベールをとって見せた。



 少しだけ紫がかった艶やかでまっすぐな黒髪。腰元まで伸びたそれを頭上でひとつにまとめ上げている。



 暗がりの中でもはっきりと分かるほど真っ赤な、ルビーのような瞳、その両目の淵から頬にかけて施された刺青がその瞳の美しさを煽る。



 瞳と同じ真っ赤な口紅に縁どられた唇がゆっくりと開いた。
 


「......私の名はローグ・アプロ・クダン。かつてフェルダン王家に仕えたクダン家の末裔にございます。我々は貴方がたオルクスの一族に多大なる恩義があります。」



 だからこそ、申し上げます。



「これは警告です」



 その後に続いたセリフに



 ジンノの顔は、真っ青に色を変える。






 
 

「貴方は、この戦いで、最も愛する人を、再び失うでしょう」




 



 その言葉は、まるで呪いのように、いつまでもジンノの頭から離れることはなかった。