ふと、イーリスの視線がそれる。



その先には治療が終わった後のルミアの姿。たくさんの人たちに囲まれている。特にノエルの弟・カーリーは相当ルミアのことを気に行ったようでルミアの細い腕にギュッとしがみついて笑っている。



 その場にいた他の子供たちもカーリーに負けじとルミアの元に集まり、背に乗っかったり体に抱き付いたりいている。



「おねえちゃんっ私もおんぶしてっ!」


「俺のが先だっ」


「おいっおねえちゃん折れちゃうだろっやめろよっ」


「カーリーこそ独り占めすんなよっ」



すっかり懐かれたようだ。



「みんな喧嘩しないで~」



 当の本人のルミアは慣れないことに若干参っているようだが。




「ハハッ、たじたじだ。ルミ困ってるんじゃないか?リュカ助けてこいよ」


「......馬鹿か。俺が子供苦手なの知ってんだろ。お前こそ行ってこいイーリス」


「却下」




 そんなくだらない話をしている最中だった。







「碧の部隊です!怪我人はッ...??」




 広場にアイルドールの団服を着込んだ数十人の騎士達が雪崩れ込んだ。



 咄嗟にルミア達三人は口元のマスク、そしてマントで体を隠す。



 ジンノの『悪目立ちするな』という言葉が頭をよぎったからだ。なんのかんの言いつつもジンノの言葉に従うああたりは固い信頼が窺える。





 碧の部隊を名乗る騎士たちは、すでに鎮火したとみられる黒焦げた建物と、その周りに集まる怪我しているようにも見えない街の人々に困惑している様子。



「火事は...??」


「とっくに消火されたよ!おめえらおせーんだよ!!あの方たちが来て下さらなかったら、また、幼い命が失われるところだった!!」



 火事に巻き込まれた一人が怒りをあらわにそう叫ぶ。



 そして碧の部隊の目は『あの方たち』と呼ばれたルミアたちに。



 呆けたようにこちらを見る彼らにイーリスが近寄る。



「はいどうも」



 ドサッ



「!?...こ、これは」


「連日の放火事件の犯人ですよ。お探しでしょう?」


「えっ!!?」



 放られた、気絶したままの男を騎士たちは驚愕の表情で見つめる。



「確かなのか!?」


「確かですよ。そいつの目が覚めれば嫌でもはっきりします。じゃあ我々はこれで」      



 用はすんだと言わんばかりに、颯爽と去っていくイーリスと、その後を追うように立ち去ろうとするルミアとリュカ。





 ルミアに懐いていた子供たちは名残惜しそうに目を潤ませる。



「...元気でね。いい子にしてるのよ」


「おねえちゃん...」


「カーリー君も。お母さんの言うことちゃんと聞いて、お兄ちゃんと一緒に頑張るんだよ」


「...うん」



 ルミアは涙ぐむその小さな少年の頭に触れるだけのキスをする。



「!!」


「バイバイ」



 ぼっと真っ赤に顔を染めるカーリー。



 最後にそんなプレゼントを残し、ルミア達はその場をあっという間に去っていった。



 ノエルもリュカに貰った白いキャップを握りしめ、三人が去った後をじっと見つめる。





 彼が、アイルドール王国きっての騎士になるのは遠くない未来の話...