───────────





「ん。美味い」



「本当?良かったっ」



 ルミアとジンノはそんな会話を交わしながら、静かにけれど幸せな朝食の時間を過ごしていた。



 そんな時。



 コンコン



 扉が軽く叩かれる音がした。



「こんな時間に誰かなあ...」



 特に何を思うことなく席を立つルミアに対し、ルミアとの大事な二人きりの時間を邪魔されイラつきをあらわにするジンノ。



 ただでさえ、前日に隊長のアイゼンが止められていた酒をリュカの制止も聞かず飲みまくって馬鹿騒ぎをしたことでジンノ怒りはマックスになっていたというのに。



 ルミアとの癒しの時間を奪われたことはあまりに大きな打撃だった。



 ろくでもない用だったら、たとえ誰であろうと後でしばき倒して立てないようにしてやると心の中では思っているなど、ルミアは知る由もない。



「ちょっと待っててくださいね、今開けます」



 そう言ってゆっくりと扉を開けると



「あ、」



 そこには真っ暗な闇が広がっていた。



 そして視線を下に下げると



「おはようございます。朝早くに申し訳ございません」



 全身真っ黒の小人──エンマがいた。



 『エンマ』



 彼は、人間が生きることのできる《光》の世界のその裏側、《影》の世界を支配する悪魔に近い生き物。



 エンマに決まった形姿は存在せず、普段はこのような小さな黒人形の姿をしているが、人に化けたり、神獣フェニックスに姿を変えることもできる。



 そして、《影》の住人であるエンマは《影》の空間を自由に移動することが出来る。



 ルミアの目の前にある扉の先の闇こそ、その《影》の空間なのだ。



「おはようエンマ、どうしたの?」



 小さいエンマに目線を合わせ、ルミアは尋ねる。



 するとエンマは、とても申し訳なさそうに話始めた。



「あの、ジンノ様はこちらに...」



 しかし一瞬にしてそれは遮られる。今まで聞いたこともないくらい不機嫌な声で。



「いるよ」



「ヒッ!!?」



 たった一言。



 それだけでここまで人を恐怖に陥れれる人間がいるだろうか。



 血も涙もない氷のような視線がエンマを射ぬく。



 こんなに不機嫌なジンノは見たことがないのか、エンマはカタカタと小さな体を震え上がらせた。