《偽りの王》



王族であるのに魔法を使えない落ちこぼれの王子に対し、人々が付けたあだ名。



幼かったセレシェイラはその言葉に責め立てられ、心を病んでしまったのか姿を消した。



つい最近再びオモテの世界に出てきたが、突然姿を現した王子に、国民はなおも冷ややかな態度をとっていたはず。



もちろん《偽りの王》という二つ名を付けて。



イーリスはそれが消えたと言っているのだ。



少なくとも、自分達が国を出るあの時は、国民はもちろん一部王家に従順な騎士を除き、国に使える使用にたちでさえもセレシェイラを見ては《偽りの王》と囁いていたというのに。



ましてや次期国王などへと意見するものが居るとは考えられない。



「一体何を考えているんだあの男...」



「それは俺にも分かりかねます。あ、それと...ネロが任務とは関係なく王国を出て北へと向かったようです」



「......ネロが、?」



「はい。一応俺の方であとを追っていますが、どうやらアポロも独断であとをつけているようです。どうしますか?」



しばらく考え込む素振りを見せると、ジンノはすっと目線をあげ、落ち着いた声で答える。



「ネロの行動は気にはなるが、アポロに任せておけ。そちらに追っ手はつけなくていい。王都の方はこのまま情報収集を続けてくれ」



「分かりました」



リュカもそうなのだが、特にイーリスは特殊部隊の中でも情報収集や偵察に特化した力を持っている。



悪いとは思いながらも、彼が自分達についてきてくれたことに内心では心底感謝しているジンノなのだった。



「毎度助かる、もう行っていいよ」



「ああ。ジンノは?」



「俺は...もう少しここにいる」



やけに物思いにふけった様子のジンノをちらりと見つめ、イーリスは一人黙ってルミア達の元へと戻って行った。