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 特殊部隊の兵舎のある一室。



 明りのない暗い部屋に、カーテンの隙間から日の光が一筋差し込む。



 その窓際には一人の男が腰かけていた。



 そしてベッドの中にも一人。



「ううぅ~~~」



 唸り声を上げ、身じろぎをしている男が。



 ベッドのそばに置かれた机には水の入ったコップと薬らしきものが少し。



「うえっ、気持ちわりい~~」



 胸を押さえ苦しみにのたうち回る。



 窓際に座り込んだ男が、その様子をちらりと見て溜息をついた。



「...連日連夜、飽きもせず酒のみまくってるからでしょうが。自業自得だ」



 冷たい声が唸る男へ容赦なく浴びせられる。



 今にもはきそうな勢いで苦しむ男は、必死に手を伸ばして水の入ったコップを手に取りぐびぐびと飲み干した。



 空になったそれは次の瞬間には誰も触れていないのに、たっぷりと水が入っている。



「この調子で、明日のジンノの妹の入隊試験間に合うんですか」



 低く冷たい声で、呆れたようにそう呟いた途端。



「...ん!?」



 がばっ!!



 今の今まで気分悪くて悶えていたというのに、突然血相を変えてベッドから起き上がった。



「明日!?試験は明日なのか!?」



「...ええ、そうですけど」



「こうしちゃおれん!!前祝だ、前祝!!
 リュカ、酒用意しろっありったけの!!」



「前祝って、何の...」



「ルミの入隊に決まってるだろ!?」



(まだ試験前だろうが...)



 目をぎらぎらとさせ、嬉々としてそう叫ぶ顔の赤い男に、リュカと呼ばれた男は思わず頭を抱える。



「...あんたアホか、ついさっきまで酒の飲み過ぎで苦しんでいたくせによ...性懲りもなく」



「馬鹿野郎!!隊長の命令が聞けないのか!さっさとの酒準備しろ!
 リュカお前も一緒に飲むぞ、な!!」



「...ったく、ジンノに叱られても知らねえからな」



 おそらく自分もジンノに叱られるであろうと想像できたが、この男がこうなってしまえば止めれないことを知っているため、リュカは全てを諦め酒の準備を始めた。



 数時間後、明日の入隊試験の最終打ち合わせに部屋を訪れたジンノに、酔ってへべれけになったところを発見され、翌日の朝方までこってりとしぼられたのは言うまでもない。