「あ...アポロ...」



 目を見開き驚くネロ。


 
 そんな様子を知ってか知らずか、アポロはネロに近づく。



「どうしたんだよネロ、ルミたちもう行っちゃったぞ
 姿が見えないから探しに来たらこんな所で......
体調でも悪いのか?」



すっと伸ばされるアポロの手。



パシッ



ネロはそれを無意識に払ってしまった。



それに気づいた時にはもう遅い。



「あ...」



二人の間にはなんとも言えない沈黙だけが残ってしまった。



・・・・・・・・



アポロの美しい赤茶の瞳が射るようにネロを見つめる。



ああ、やめてくれ。



ネロは心の中で何度もそう叫ぶ。



ほとんどの時間を共に過ごしてきた、それはもう兄弟のように。



王族のそれも当主であるアポロと、平民の地位も何も無いネロ。



普通であればけして結びつく事の無いふたりが、『魔法』により接点が生まれそして引き寄せられた。



互いが互いに惹かれあった。



それと同時にネロの中にアポロという人間を羨む気持ちが生まれた。



自分にはないものを全て持ちながら、自らそれを手放そうとする。



それは、魔法だってそう。



才能だけで特殊部隊にまで手をかけたアポロ、かたやネロは血のにじむような努力の末にこの場所にいる。



そしてその羨む気持ちが嫉妬や憎しみに変わることもあった。



それがある日を境に一変する。



《ヘリオダスの悲劇》



王族分家のヘリオダス家が何者かによって抹殺された事件だ。



同じく王族分家のクリスタリア一族が襲われ壊滅した事件に続く出来事であった為に、国中が大騒ぎ。



勿論、アポロも狙われた。



しかし、当時から権力に固執する両親を嫌い、政治の世界から逃げるように軍に入隊したアポロはその才能で特殊部隊に入隊できるほどの実力を持っていた為に、敵をも圧倒する力で生き残ったのだ。



だが、人々は残酷だった。



たった一人生き残ったアポロに対し、権力欲しさに当時当主だった父をも殺した犯罪者だと批難しはじめた。



日に日に増す、非難の嵐。



アポロ平気だと笑っていたが、その風当たりの強さに心が折れそうになることもしばしばあった。



そんな時にアポロがすがったのがネロだった。



弱音や苦しさ、葛藤を包み隠さず吐き出すアポロを目にし、ネロは安心してしまった。



アポロも普通の人なのだと。



家族を失えば悲しみ、理不尽に責め立てられれば苦しむ。涙だって流すのだ。



それからというもの、ネロはただひたすらアポロを支えた。



当主につかざるを得なくなった友を持てる全てを使って全力でサポートした。



アポロも、自身に差し伸べられたその手を自ら取るようになっていったと思う。



この時からだろう。



アポロとネロが、友という関係から心を許しあった兄弟のようになったのは。



そして、この男の瞳を恐れ始めたのは。