「確かに暴れ足りないな、俺を満足させるような相手はそうそういない。その点、特殊部隊という環境は良かった。あいつらといても飽きない、満足はさせてくれないがな」
「そうだろう。私の元に来れば、今まで通り特殊部隊副隊長として所属できる、思う存分暴れる場所と人材を与えられる」
勝ち誇ったような声色に、オーリングの脳裏にはいつか見たグロルの気味の悪い笑が蘇る。
(ジンノさんっ......そんな......)
このままじゃあ、ジンノが『あちら』側の人間になってしまう。
オーリング達の敵になってしまう。
(だめだっそんなの!止めないとっ......)
そう思って、オーリングが二人の前に飛び出そうとしたその時
「だがな──」
ジンノの低い声が回廊に一際大きく響いた。
オーリングは動きを止める。
グロルも表情を一変させ、笑を消して目の前の男を見上げた。
「確かに俺は今まで強さだけを求めて生きてきた、まあそこは間違ってはいない」
けどな
そう言葉を続けながら、ジンノは口元に憎々しいほどに美しい笑みを浮かべながら、さらに高圧的にグロルを見下げて言うのだ。
「それはもうどうでもいい」
グロルの目の色がわずかに変わる。
ジンノは笑みを浮かべたまま続ける。
「王家がどうなろうが、お前らが何をしようが、それもどうだっていい。俺にとって大事になのはルミアと共に居れるかどうかだ」
その言葉に、オーリングそしてグロルも目を見張る。
「俺はルミアを守るための力が欲しかった。唯一ルミアの《生》だけを信じて生きてきたこの十年間、俺はそれを求めることでしか前を向けなかった。だが、今、ルミアは俺の隣にいる」
ルミアさえいてくれればいい。
それだけでいい。
他には何もいらない。
強い瞳のまま迷いなくそう答えるジンノ。
「......実の妹にそこまで執着するか......狂ってるな」
グロルの呟きに、オーリングも思わず息を呑む。
ジンノがルミアの事を大切にしてきたのは分かっている。
だが、ここまでとは。
「なんとでも言え、だがこれだけは何があっても変わらない。俺を手に入れたきゃ、ルミアを動かせ」
まあ、お前らの手に負えるような相手じゃあないがな。
ルミアのことを思い浮かべているのか、ジンノの表情が心なしかほっと柔らかくなる。
だが、それは一瞬で消え去り、再びその冷たく感情の失せた黒い瞳でグロルを突き刺すように見つめる。
「もし万が一、ルミアに危害を加えてみろ。俺はお前たちを許さない」
王族がどうなろうと
国が破滅しようと
そんなことどうだっていい。
ただ、ルミアを傷付けることだけは何があろうと許さない。
王家にすら忠誠を誓わない名ばかりの最強の騎士は言う。
忘れるな
「俺はお前らが知るただの《オルクス》じゃない」
自分の信じた正義の為に、本能の赴くまま戦う、聖者《オルクス》
王族を自らの正義とする、歴代の《オルクス》とジンノはまるきり違う。
「俺の正義はルミアそのものだ。ルミアの為なら例え王族であろうと容赦なく手を掛ける」
グロルの襟元をぐっと掴み上げ、鼻と鼻とがぶつかるその直前の所まで持ち上げる。
グロルより頭一つ分大きなジンノ。もはや身分など関係はない。
闇を映したような黒い瞳で射抜くように見つめ、ゆっくりと口を開く。
「分かるか。俺は、お前を、殺せるんだ」
高い位置から脅すように、ジンノは言葉を浴びせかけた。
その言葉は目の前のグロルは勿論、オーリングまでも震え上がらせる。
《魔王》ジンノ
その名の意味をヒシヒシと肌で感じていた。


