「別に俺はお前の主じゃない。血族の関係上、上下というものが出来てしまうが、それをふまえても、今お前がやっていることは間違っている
ルミの傍に居たいんだろ?だったらその思いに正直になればいい。俺の事を気にして身を引くような真似せずに、お前もルミと一緒に国を出ていけばいいじゃないか
従者のように、いつまでも俺のそばにいなくてもいいんだ。当主としての仕事をしてくれれば、オーリィは自由に生きていいんだよ」
言い聞かせるように優しくそういうシェイラ。けれどその表情はどこか寂しそうで。
オーリングは何も言えなかった。
シェイラが言っていることは何一つ間違っていないのだから。
でも、
「じゃあ、貴方は何でそんなに苦しそうな顔するんですか...」
その言葉にシェイラは僅かに目を見開く。
そして直ぐにその視線を窓の外に向けた。
「......兄上と、同じことを言うんだな」
ぼそりとそう呟きながら。
弱い貴方は、人を遠ざけることで何かを守ろうとしてしまう。
いつもそうだ。
魔法を使えないと非難されていても、言い返さず周りの人が自分から離れていくのをどこかホッとしながら見ている。
自分の力が周りの人達を傷つけてしまうのが怖いから。
寂しさを押し殺して、一人で生きようとする。一人で全てを背負い込もうとする。
けれど、そんな孤独との戦いは苦しくて。
その支えになっていたのが、ルミアだった。
シェイラが言っていることは正しい。
確かにシェイラを言い訳に、ルミアへの想いを騙してきた。
「...分かりました。私はもう、貴方の為に全てを捧げる生き方はしない。遠慮もしない思いのままに生きます
だから、貴方もそうしてください」
「...........俺は、俺のやりたいように生きてる。今も、これから先も」
こちらを見もせずそう答えるシェイラ。
(嘘だ......)
一目で分かる。
分かりやすく苦しそうな顔するなよ。
だったら、俺がルミちゃんを取ってもいいのかよ。
そんな思いがオーリングの心を占める。
だが、それを言葉には出来なかった。
なぜだか、シェイラがひどく大きな何かを背負っているように見えたから。
それを言ってしまえば、シェイラが壊れて消えてしまいそうだったから。
(貴方は一体何を考えているんですか......俺にも言えないことですか......)
ずっとシェイラの元で、支えになりたくて生きてきた。
少しは信頼されていると思っていたのに。
自惚れだったのか?
「......俺は貴方の従者ではない、けど、一人の人間として誰よりも貴方を慕っている自信はあります。これからも俺は貴方の味方で居続ける。それだけは忘れないでください」
だから、ほんの少しでいいから頼って下さい。
そんな思いを込めて言ったオーリングの言葉は、シェイラにちゃんと伝わったか分からない。
伝わっていることを信じて、オーリングは静かに部屋を後にした。
扉が閉じる直前、オーリングは小さく呟く。
「ルミちゃんとジンノさんは、今夜、この国を出ていくそうです......」
だからどうしろと言うわけじゃない。
ただ、少しでもシェイラの心が動けばとそう思った。
だがシェイラからの返答はない。
オーリングは肩を落とし、静かに扉を閉じた。
部屋に残されたシェイラはいつまでも、外を眺めていた。
オーリングの心を映す様に、静かに雨が降り続いていた。


