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 しばしの休憩をとっていた時。



「ただいまー」



 突如闘技場内に一際明るい声が響いた。



「あ、おかえりなさーい」



 アポロが手を振る先には二人の男性。



 一人は短髪で笑顔と口元から除く白い歯が印象的なラウル。



 明るく元気な性格で運動が大好きな彼は、誰からも好かれる。



 特に幼い子供たちに人気で、街に出れば一瞬で囲まれるほどだ。



 そんなラウルの少し後ろから遅れて姿を現したのはイーリス。



 人一倍温厚で優しいイーリスは左ほほに大きな獣傷がある。



 優しい表情の彼には不釣り合いなそれは彼がやはり特殊部隊の一員であることを物語っている。



「ただいま、ジンノ。ルミも」



「おかえりなさい、イーリス」



あくまで紳士的に、頬と頬を寄せあって挨拶をする。



一連の動作として誰にでもそうすることを知っているからか、ルミアとイーリスが肩を抱き頬を寄せあっても今回ばかりはジンノも何も言わない。



不満そうにほっぺを膨らませジト目でそれを見るアポロ。



子供っぽいその仕草にラウルやネロは思わず笑ってしまう。



「イーリスばっかずるい......俺もルミとギュッてしたいぃ」



「無理だよ。諦めな、ジンノさんが見てる」



ルミアがこの世界に戻って来てからというもの、アポロはいつもこの調子だ。



実年齢は23歳とルミアよりも若干歳上でありながら、まるで子供、あるいは弟になったかのようにルミアに甘えたがる。



それは時に、異常な執着であるようにも思える程。



ラウルが「そう言えば、」とアポロを向かって尋ねる。



「俺がルミアと初めて会った時、お前ら既にルミアを知ってるみたいなこと言ってたよな。何でだ?」



フェルダン=ルシャ王都全土を巻き込んでの王子暗殺未遂事件が解決して、まだ数週間。



意図的に国外に出されていた特殊部隊の面々が、ジンノの企てで国に集まったのがこの事件の日だ。



そして、記憶と魔力が戻ったルミアが現れたのもこの日。



ラウルを始め特殊部隊の騎士たちはこの日初めてルミア・プリーストンと言う名の白髪の美女と対面した筈なのである。