ルミアはここ数日間、特殊部隊入隊試験に向け体術の特訓に勤しんでいた。



 その相手としてネロは休みなくつき合わされていたのだ。



 アポロも手が空いていたのだが、ずっとこの調子でジンノから妨害を食らっている。



 そんなに言うならジンノが相手をしやればいいのだが、如何せん入隊試験で実技を担当するのが当のジンノなのだ。



 通常軍の入隊試験は筆記・実技・面接のごく一般的な三つが中心となっているのだが、特殊部隊の入隊試験は面接なし、筆記なし、実技のみとなっている。



 つまり実力勝負というわけなのだ。



 もちろん特殊部隊の面々に気に入られたものしか試験は受けられないので、誰でも受けることが出来るというわけではない。



 その点はルミアは安心だ。



 何せ、兄ジンノがいるのだから。



 他にもいくつか理由はあるのだが、ルミアは思い出したくないわけがある。



 まあ、それはおいおい話すとして。



 実技に関して、試験は二種類あり、体術と魔術両方を別々に見られることとなる。



 今回体術担当が副隊長のジンノとオーリング、魔術を担当するのが隊長であるアイゼンという事になっている。



 故に、試験官となるジンノは特訓に肩入れできないのだ。



「ごめんね、ネロ。もう休もう。あとは私一人でどうにかなるからさ」



 申し訳なさそうに、倒れこむネロへ手を伸ばすルミア。



 その手を取り、むくりと体を起き上がらせる。



「謝らないでよ。体力がない俺が悪いんだからさ...こっちこそごめん」



「ううん、すっごく助かった。ありがとう」



「ミア嬢ならきっと余裕で受かるよ、俺早く一緒に仕事したい」



 汗に濡れた髪の隙間から細められた黒い眼と笑顔がのぞく。



 ルミアもそれに惚れ惚れする様な美しい笑みでかえす。



 完全に無自覚なのだろう、その笑顔にどれだけの男が虜になるのか。



 思わずネロの顔も耳まで真っ赤に染まってしまう。



「ひっっっ!!!?」



 途端に背筋を襲う凍り付くような痛いほどの視線。



 ネロが恐る恐る後ろを振り向くと、そこには目を吊り上げその様子を不満げに見つめるアポロとジンノの姿があった。



 これまで、いくつもの戦場を経験してきたネロ。



 そんな中で一度も経験したことのない程の身の危険を感じた瞬間だったのだった。